山田耕筰『赤とんぼ』を例にして、伴奏を作っていきましょう。 島岡 譲「和声のしくみ・楽曲のしくみ」を基に説明していきますが、適宜私見を載せています。
和音を分かりやすくするために転位音を除去します。 どの音を和声音、非和声音(転位音)にするかで個性が出るところです。 テキストでは修飾音も除去して考えていますが、和音の設定をしやすくするため、ここでは修飾音は残しています。
島岡.和声のしくみ・楽曲のしくみ.音楽之友社.2006.p.55-56.
転位音を除去したら、原音と修飾音を基に和音を先に決めておくと、この後の作業が楽になります。 原位音と修飾音を満たすような三和音の固有和音(ダイアトニックコード)を選ぶのが原則ですが、テンションも考慮して繋がりの良い和音を選ぶのも良いでしょう。 6小節目3拍目では分数コード(テンション)を使用しています。 和声法やコード理論で勉強した知識を使っていきましょう!
和音が決まったら、修飾音を除去し、旋律の骨組となる音を判定します。 比較的目立つ音、互いに良い繋がりをなす音が骨組として相応しいです。
島岡.和声のしくみ・楽曲のしくみ.音楽之友社.2006.p.55.
設定した和音に合うように低音部を設定します。 なめらかに繋がるように転回形も使用しながら設定します。 迷った場合は外声部を反行させるといいでしょう。 ただし、曲の最後の全終止では、基本形を使って低音が4度上行もしくは5度下行させるのが良いです。
※全終止とはⅤ→Ⅰと進行する終止の型です。
島岡.和声のしくみ・楽曲のしくみ.音楽之友社.2006.p.37.
和音部(内声)を設定します。 共通音は保留し、共通音がない場合は近い音を設定すると演奏が容易になるでしょう。 限定進行音がある場合はそれを守ると良いですが、必須ではないです。
※限定進行音というのは和声法で扱う内容で、導音は2度上行、四和音の第7音は2度下行します。
伴奏部をすべて三和音のみで構成すると、伴奏部は低音部の動きと一緒に進行するので、和音部の進行はスムーズにならない場合があります。 そのときは四和音を適宜使用するといいでしょう。 四和音の場合は旋律の骨組で使われている音以外の構成音で伴奏するのが原則ですが、根音を重複させて第五音を省略させるパターンもあります。
装飾音を復元すれば、人前で演奏できる出来になります。
これ以降は必須ではなく、より凝った形にしたい場合に参考にするといいでしょう。 左手の伴奏部を分散和音の形に変えます。 演奏しやすく、かつ響きの良いパターンになるよう試行錯誤していきましょう。
島岡.和声のしくみ・楽曲のしくみ.音楽之友社.2006.p.59.
伴奏を手直ししていきたいと思います。 各声部で、もう少しスムーズに動けそうな箇所が何か所かあります。 例えば、2小節目から3小節目にかけて、低音部や内声部はもう少し工夫できそうです。 5小節目、6小節目も1小節がまるまる同じ和音でマンネリ化しており、工夫の余地がありそうです。
声部の進行が順次進行や半音階的進行になるように和音の構成音をずらしてみました。 こういった偶成和音は響きに多様性を与えたい場合に有用ですが、うまく設定しないと濁った響きになることがあるので、逐一確認していく必要があるでしょう。 なお、コードネームや和声記号が複雑になることが多いので、間違えても気にしなくていいと思います!(笑)
ここからの内容はヤマハの音楽出版『新総合音楽講座 6 伴奏づけ』を参考にして書いています。 キーボード様式における伴奏付けについて、より詳しく記した書籍です。
伴奏部を装飾したら、今度は旋律部に目を向けてみましょう。 2小節目の高音になっている部分は、伴奏部との音程が広がりすぎているのが気になります。 また、4小節目、5小節目では旋律部が長音のためスカスカな印象があります。
そこで、旋律部の下に更に声部を追加してみました。 3度、6度をメインに、次いで5度、時折4度下の音程を使うと良いようにハモることができます。
竹内剛.新総合音楽講座 6 伴奏付け.ヤマハの音楽出版.2006.p.48,86.
突然現れた嬰へ音、それが裏コードとして先行和音との連結をスムーズにしているのが、この伴奏の特色です。
メインの旋律が長音になっている部分では、ハモリの旋律は動くようにするのが良いでしょう。 4小節目の3拍目は、ハモリの声部にも更に3度のハモリを入れてみました。
このように旋律部にハモリを入れることで響きが豊かになりますが、その分演奏の難易度が上がるので注意しましょう。 超絶技巧などといって徒に曲の難易度を挙げるのは感心しません。 先に挙げたような、同時和音を全音符で演奏するだけでも十分だと考えます。
これで伴奏付けが完了しました。 個性溢れる伴奏をつけてみましょう。