ZUN進行とその亜種

はじめに ~ ZUN進行の紹介とこのページの目的

ZUN進行とは,東方Project楽曲(以下,東方曲)で使われるコード進行で,一般的にはⅠmの進行を指します. 東方曲では,この進行のほかにも様々なコード進行が使われています. ここでは,主な東方曲のコード進行を調べることで,東方自作アレンジや東方風自作曲の制作に役立てようと思います.

短調におけるダイアトニックコード

自然的短音階

自然的短音階におけるダイアトニックコード

コード進行を考えるには,まずどのようなコードが使われているか確認する必要があります. 基本となる自然的短音階におけるダイアトニックコードを書き出してみました. これらのコードを上手く使いこなすのがカギです.

和声的短音階

和声的短音階におけるダイアトニックコード

ただし,自然的短音階には弱点があります. 第ⅶ音が導音ではなく下主音になっているため,ドミナントコードがトニックコードへの推進力に欠けるという点です. この弱点を克服したのを和声的短音階といい,自然的短音階の第ⅶ音を半音上げて導音としています. これにより,ドミナントコードがトニックコードへ連結しやすくなります.

基本的に東方曲では,自然的短音階によるダイアトニックコードを使用するのですが,上述の理由から,和声的短音階におけるドミナントコードであるも使用されます. 和声的短音階特有のダイアトニックコードとして,ほかにⅢaugⅦdimがありますが,これらはあまり使わないません. 慣れてから使いましょう.

旋律的短音階

旋律的短音階におけるダイアトニックコード

これ以降は蘊蓄的なものなので,読み飛ばしてかまいません.

更に下中音を半音上げた音階を旋律的短音階といいます. ダイアトニックコードとして,新たにⅡmⅥdimが出現します. 基本的には気にしなくていいですが,たまに使うと良いと思います.

長音階

長音階におけるダイアトニックコード

更に上中音を半音上げると,これは長音階ですね! 参考までに載せておきました!

ドリア旋法

ドリア旋法におけるダイアトニックコード

長音階,短音階に分類されない音階として,教会旋法というものがあります. 詳しくはググってください. ここでは,教会旋法の中で,ドリア旋法というものを取り上げてみます. 簡単に言うと,自然的短音階の下中音を半音上げたものです. この旋法の第ⅶ音を下主音から半音上げて導音にすると,旋律的短音階になります.

参考文献:石丸 真礼生ら.2001.新装版 楽典 理論と演習.131~132.

ダイアトニックコードの役割

よく使われるコード

いろいろと音階の種類やそれらのダイアトニックコードを並べてみましたが,面倒臭ければ覚えなくて良いと思います. よく使うコードは,自然的短音階におけるダイアトニックコードと,和声的短音階から借用したです. それだけ覚えましょう.

これらのコードを1つずつ見て,役割を確認してみます. 面倒臭い場合はこの節はとばしてください. ぶっちゃけ知らなくても何とかなりますし,筆者の主観がかなり入っています. 詳しく知りたい方は,以下に挙げた本を読んでください.

参考文献:植田 彰.初歩から身につく! コードの選び方マニュアル.RittorMusic.2019.
清水 響.コード理論大全 ENCYCLOPEDIA OF CHORD THEORY.RittorMusic.2018.

Ⅰm

いわずと知れたトニックコードです. 基本的にこのコードに向かって終止することを目指します. また,Aメロではこのコードから始めることが多いです.

Ⅱdim

サブドミナントの代理コードになりますが,あまり使われません. ツーファイブ進行でへの繋ぎとして使用することがあるようですが,減五度特有の不安定な響きのため,筆者はうまく使いこなすことができませんでした.

トニックコードの代理コードになります. 平行調におけるトニックコードであり,長調の曲だと基本となるコードになりますが,東方曲は基本的に短調なので,実はあまり使用する機会はありません.

Ⅳm

短音階におけるサブドミナントコードです. 東方曲では,サブドミナントコードとしては代理コードのが良く使われます. そのため,主役というよりかは準主役として使用されるコードです.

Ⅴm or Ⅴ

短音階におけるドミナントコードです. サブドミナントコードから連結したり,このコードから更にトニックコードへ連結することができます. トニックへの連結は,導音を構成音として持つがより良いです.

ZUN進行において必ず使われるコードです. サブドミナントコードの代理コードとなります. トニックコードであるⅠmと共通する音も多いため,トニックに分類している書籍もあり(※),サブドミナントコードとトニックコードの中間的な性質を持つコードといえるでしょう. トニックコードから連結されるのももちろんですが,このコードから開始するコード進行が,東方曲のメインのコード進行になります.

※植田 彰.初歩から身につく! コードの選び方マニュアル.RittorMusic.2019.55~56.

こちらもZUN進行で必ず使われるコードになります. ドミナントコードの代理コードとなりますが,導音ではなく下主音を構成音に持つためトニックコードへの推進力が弱く,「ドミナント機能を持たないドミナントコード(※)」とも呼ばれたりします. それでも,東方曲においては,サブドミナントコードから連結され,トニックコードに連結する役割を持ちます.

※清水 響.コード理論大全 ENCYCLOPEDIA OF CHORD THEORY.RittorMusic.2018.76~80.

コード進行の原則

開始コード

具体的なコード進行例を提示する前に,東方曲のコード進行の基本的な原則について述べます. 開始はトニックコードもしくはサブドミナントコード(特に)が担当することが多いです.

コードの連結

どのコードからどのコードに連結させるかにはある程度規則があります. ただし,以下に挙げるのは原則ですので,しばしば破られます.

終止コード

フレーズの最後のコードにはトニックコードを使用するのが原則です. 次のフレーズに繋げるために,更にドミナントコードに繋げることがあります. また,半終止(※)といって,トニックコードを経ずにドミナントコードで終止することもあります.

※清水 響.コード理論大全 ENCYCLOPEDIA OF CHORD THEORY.RittorMusic.2018.60~61.

基本的なコード進行

それでは,2小節単位での,コード進行パターンを列挙していきます. ここでは,凝った進行パターンは割愛して,基本的なパターンのみを列挙しています. ここに挙げたパターンのみである程度の作曲・編曲は可能です. 覚えておいて,いつでも使えるようにしましょう.

なお,ここに挙げた東方曲のコード進行は必ずしも原曲に沿ったものではなく,また,唯一の正解でもありません. 最終的には自分の耳の好みでコード進行を決定して下さい.

トニックコード連打進行【Ⅰm→ …】

東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.『ほおづきみたいに紅い魂』

まずはトニックコードから始まるコード進行を挙げます. 最も単純な進行ですが,これで何とかなることが多いです. コード進行で迷ったらコレを選択しましょう!

TSD型進行【Ⅰm→ …】

東方風神録 ~ Mountain of Faith.『運命のダークサイド』

Ⅰmの次にサブドミナントの代理コードであるを2番目に使用した例です. Ⅰmと共通する構成音を持つので,自然な流れで聴こえます. 次にはドミナントの代理コードであるを繋げており,これも自然な流れになります.

下降進行【Ⅰm♭ⅥⅤm→ …】

東方風神録 ~ Mountain of Faith.『明日ハレの日、ケの昨日』

ルート音の滑らかな推移を重視したコード進行です. ここからサブドミナントコードであるⅣmに接続すると,下降進行からの上昇進行の流れが非常に綺麗になります. そのため,多くの東方曲に使用されています.

ZUN進行【Ⅰm

東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.『幽雅に咲かせ,墨染の桜 ~ Border of Life』

ここからは,サブドミナントコードおよびその代理コードから始める進行を取り上げます. まずは,いわゆる『ZUN進行』とよばれる進行です. サブドミナントコード → ドミナントコード → トニックコードという王道の進行で,かつルート音が第ⅵ音から第ⅰ音まで段階的に上昇進行になっているので,非常に聴きやすくなっております. ほぼすべての曲で使用されております. 基本的にこの進行を念頭に置いてコードを割り振れば,まず間違えることはありません.

マイナーコード利用型進行【ⅣmⅤmⅠm

ZUN進行において,と同じサブドミナントコードであるⅣmと同じドミナントコードであるⅤmを使用することもできます. 短音階における(代理コードではない)本来のサブドミナントコード,ドミナントコードを使用しており,こちらも自然なコード進行となっております. ZUN進行とほぼ同じ感覚で使用できます. ZUN進行とこの進行をメインに使用すると良いでしょう.

半終止【

東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.『広有射怪鳥事 ~ Till When?』

ZUN進行の最後のコードをトニックコードではなくドミナントコードにして半終止にさせる方法もあります. ドミナントコードで終わっているので,教科書的(※)にはこの後はトニックコードで始まるフレーズを導くのが原則です. しかし,サブドミナントコードであるⅣmで始まるフレーズから始めても,実際は違和感なく聴こえます. ルート音が近いため自然に連結されているように聴こえるのですかね?

※清水 響.コード理論大全 ENCYCLOPEDIA OF CHORD THEORY.RittorMusic.2018.60~61.

ドミナントコードの挿入【Ⅰm

東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.『華のさかづき大江山』

ZUN進行のⅠmの間に,ドミナントコードであるを経由させたものです. 導音を含むドミナントコードであるをトニックの前に連結することで,トニックコードへの連結をより自然にしています.

上昇進行【ⅣmⅤmⅠm

燕石博物誌 ~ Dr.Latency's Freak Report.『他愛も無い二人の博物誌』

やや応用的なコード進行になりますが,サブドミナントコード → ドミナントコードの流れを2回繰り返すと,より劇的になります. ルート音も第ⅳ音から第ⅰ音まで段階的に上昇しており,流れもスムーズです.

応用的なコード進行例

応用形における考え方

これ以降は,パターン通りのコード進行だとしっくりこない場合や,少し凝ったコード進行をしたい場合に使われる進行例です. こういった進行パターンは枚挙にいとまがなく,全パターンを暗記するのは不可能なので,基本的な考え方を示します. といっても,合うコードを探し出し,それを一つ一つ当てはめ,自分ので聴いてみて心地が良いものを採用する,という試行錯誤が基本になります.

また,ここに書いてある技法を使わなくても,東方曲のコード進行を構成することはできます. 基本例のコード進行例に飽きた場合に使いましょう.

ノンダイアトニックコードの使用

凝ったコード進行では,ノンダイアトニックコードも使用する場面が出現します. ただし,コードは無数にありますが,どれでも使ってよいというわけではありません. 自然的短音階のダイアトニックコードの構成音を置換して変化をさせてみます. 以下に例を挙げます.

これらは和声的短音階,旋律的短音階,長音階,ドリア旋法で使用されるコードになっています. これらのコードを候補として念頭に置きましょう.

ノンダイアトニックコードへの置換【ⅣmⅤmⅥdimⅦdim→ …】

東方花映塚 ~ Phantasmagoria of Flower View.『フラワリングナイト』

最も単純な方法は,今まで挙げたコード進行例での構成コードを上記パターンを用いて置換する方法です. ここでは,『上昇進行』を基に,の代わりにⅥdimを,の代わりにⅦdimを使用しました.

ピカルディ終止【

燕石博物誌 ~ Dr.Latency's Freak Report.『他愛も無い二人の博物誌』

Ⅰmに置換する方法もあります. この例の後半2小節に着目してください. 一般的なZUN進行ですが,終止がメジャーコードになっています. これをピカルディ終止といい,短調曲ながら明るい印象を与えることができます.

また,メジャーコードに終止する際は,この例のようにsus4からメジャーコードに連結すると,より自然な終止になります.

これは応用例に分類していますが,多くの東方曲で使われるテクニックなので,覚えてください.

ドリア旋法の利用【Ⅰm…】

東方輝針城 ~ Double Dealing Character.『ミストレイク』

メロディーで下中音が主音から長6度の音になっている場合,ドリア旋法の考え方を利用したコード進行を考えると良いです. つまり,ドリア旋法特有のダイアトニックコードであるを使用する方法です. トニックコードであるⅠmから始めて,代理コードであるを経て,に連結させています.

東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.『廃獄ララバイ』

理論的に正確かどうかは怪しいですが,ドリア旋法の利用は,一時的に属調に転調したと考えると,コード進行が分かりやすくなるかと思います. 主調から見たは,属調から見るととなり,ZUN進行と同じになります.

半音ずつの下降進行【ⅠmⅦdimⅥdim→ …】

The Grimoire of Marisa『魔法使いの憂鬱』

下降進行の応用形をみてみましょう. 基本例でみた下降進行は2度ずつ,ダイアトニックコードのみ用いた下降進行でしたが,ノンダイアトニックコードを使うと半音ごとの下降進行を作ることができます.

転回形の利用【Ⅰm11→ …】

The Grimoire of Marisa『魔法使いの憂鬱』

先の例では減五度の和音を使うため,不安定な響きを持っています. それを嫌う場合は完全五度和音の転回形を用いると良いです. 例えば,ⅥdimⅣm7のルート音を省略したものと考えると,に置換できることが分かります. 置換したら,ベース音を下降進行にするため,第一転回形にします. 同様に,Ⅶdimの第一転回形に置換することができます. 原曲では,こちらの進行が採用されています.

ツー・ファイブの利用【Ⅱdim→

東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.『広有射怪鳥事 ~ Till When?』

先に挙げた『広有射怪鳥事 ~ Till When?』で,ほかのコード進行パターンを考えてみましょう. こちらは,ルート音が四度ずつ上がる進行の例です. Ⅱdimといった進行はツー・ファイブといいます. 東方曲ではほとんどつかう場面がありません. 「こういった例もある」くらいの認識で,ドミナントコードの前に何かコードを置きたい場合に考慮すると良いでしょう.

セカンダリードミナントの利用

東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.『廃獄ララバイ』

先に提示した『廃獄ララバイ』を違ったコード進行で伴奏してみましょう. こちらもルート音四度上昇を連続させた進行の例です. 8小節目のコードであるG#は9小節目のコードであるC#から見るとドミナントコードとなっており,これをセカンダリー・ドミナントと言います. 8小節目はドリア旋法の構成音を使用しているため,構成音にD#音を含むG#の使用が自然になっています.

アップロード日:2022年8月7日
最終更新日:2022年8月21日
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